〜このままでは終われない女たちの挑戦〜『マーベラス・ミセス・メイゼル』

こんにちは、Chiaです。冬の寒さが訪れた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。今回は、もうすぐやってくるホリデーシーズンにぴったりなドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』をご紹介します。製作総指揮を務めたのは、ドラマ『ギルモア・ガールズ』でも知られるエイミー・シャーマン=パラディーノ。Amazonプライムで2017年の11月にシーズン1が放送され、今年の12月5日にシーズン2が公開されたばかりです。そして、現段階ではシリーズ3までの製作が決定しています。

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2018年のゴールデン・グローブでは、コメディシリーズ部門で作品賞と主演女優賞を受賞しました。エミーではコメディのジャンルにおいて全7部門のうち候補に6部門が候補に選ばれ、そのうちの5部門を獲得。過去10年を遡ってみても、コメディで5部門以上獲得したのは2011年の『モダン・ファミリー』だけです。人気コメディドラマでも票が割れてなかなか受賞にならないことが多い賞レースでの、久しぶりの快挙と言えます。また、評論家のレビューをまとめたサイト「Rotton Tomatoes」では95%という高い評価を受けています。
では、このドラマの魅力とは一体何なのでしょうか。

マーベラスな専業主婦、ミセス・メイゼル

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物語の舞台は1958年のニューヨーク。主人公であるミリアム・”ミッジ”・メイゼル(レイチェル・ブロズナハン)は、夫のジョール(マイケル・ゼゲン)と二人の子どもがいる裕福な専業主婦。当時の企業広告で見られるような女性像を体現しており、完璧なヘアメイクとファッションに身を包み、アッパー・ウエスト・サイドのマンションで充実した生活を送っていました。50年代といえば、西欧では子どもを産んだ女性のほとんどが仕事を辞めて家庭に入っていた時代。アメリカでは出産後も働く女性は約11%ほどだったそうです。ミッジは名門女子大を優秀な成績で卒業した後、結婚と出産を経て専業主婦になりました。彼女は何事に対しても一生懸命、前向きな姿勢で取り組みます。同時代の郊外の若い夫婦を描いた映画『レボリューショナリー・ロード』や、それよりも少し後の1960年代のNYの広告業界を舞台とするドラマ『マッド・メン』で登場する郊外の専業主婦たちのように、倦怠と寂しさを内に秘め、もどかしい気持ちで日々を過ごしている女性ではないのです。エイミー・シャーマン=パラディーノは「彼女の時代において、ミッジはとても素晴らしい生活を築き挙げたの。だから彼女には誇らしく思って欲しかった。それに私が思うに、結婚して子供がいて幸せに暮らし、その生き方に満足することは何も悪いことではないのですから」とインタビューで話しています。
しかしあることをきっかけにミッジの暮らしは一変し、そこから物語は意外な展開を見せます。

主人公ミッジを演じるのは、『ハウス・オブ・カード』のレイチェル役でも知られるレイチェル・ブロズナハン。レイチェル自身はミッジについて「とても勇敢な人。私よりも勇敢です。それを伝えられたら良いと思います。」と語っています。その言葉通り、彼女は大胆で型破りな行動に出るのです。

2. スタンダップコメディーの世界

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その行動とは、なんとスタンダップコメディーの世界に飛び込むこと。「あること」をきっかけにして酔っ払ったミッジが訪れたのが、グリニッジヴィレッジにあるコーヒーハウスです。そこは、かつてボブ・ディランも演奏した伝説的な店「ガスライト・カフェ」(※1971年閉店)でした。その店では、夫のジョールも余暇にスタンダップ・コメディを披露していたことがありました。

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ミッジがこの世界に入ることになったシーンは最大の見せ場でもあるのですが、まるで本物の舞台を見ているようで引き込まれてしまいます。その臨場感をどう作り上げたのだろうと思っていましたが、実はエイミー・シャーマン=パラディーノの父親は、スタンダップ・コメディアン(ダン・パラディーノ)だったとか。Vanity誌のインタビューではこのように話しています。

「不思議なもので、私の父はスタンダップコメディアンでした。だから互いを笑わせようとばかりするユダヤ系の人たち(エイミーはユダヤ系)に囲まれて育ったんです。(中略)そして私はコメディーストアで働いていたこともあります。だからこのドラマは、誰か特定のコメディアンを意識的にオマージュしたものではなくて、私が経験した当時の感覚を元にしました。」

コメディーの世界を実際に見守っていた彼女だからこそ、フィクションの枠を超えたリアリティーを表現できたのではないでしょうか。華々しい成功とは別に、当時のコメディアンが抱えていた挫折や孤独、芸風や女性芸人に対しての風当たりの強さも描かれています。ミッジにその世界を案内してくれる人物として登場するのが、レニー・ブルースというのも象徴的であるような気がします。レニーはちょうど同じ時代に活躍した、ユダヤ系のコメディアンです。社会におけるタブーに切り込んだユーモアを得意としていましたが、数々の言動によって厳しく処罰されたために、アメリカの言論の自由における重要な人物となりました。このドラマは、時代に翻弄されながらも歴史を切り開いた、レニーのようなコメディ界の先駆者たちへの賛辞であるように感じます。また、ミッジ役のレイチェルは、初期の女性コメディアンであるジョーン・リバーズやジーン・キャロルといった人たちを参考に役作りをしたと言っています。

3. 台詞が織りなす人間ドラマ

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エイミーが手がけたドラマ『ギルモア・ガールズ』と同様に、このドラマでは登場人物たちがとにかくよく喋ります。まるでピンポンのように早いペースで繰り広げられる、ウィットに富んだ会話は、ミッジのコメディセンスを裏付けているかのよう。Vulture.comが「エイミー・シャーマン=パラディーノのドラマの特徴」として最初に挙げたのが、この”The One-of-a-Kind Dialogue”、つまり独特な対話です。コメディドラマの成功の鍵を握るのは、限られた人物関係の中でいかに面白い会話を引き出すかということではないでしょうか。日常の出来事が特別だと思えるのは、誰かが何気なく言った、気の利いた一言のおかげかもしれません。そういう瞬間が、このドラマには何度も訪れます。物語が思わぬ方向に進んで行くのも、膨大な量の対話から溢れた本心がきっかけになっていたりするので面白いです。

ではここで、登場人物たちを少しだけご紹介したいと思います。

ジョール・メイゼル(マイケル・ゼゲン)ーミッジの夫。叔父の会社の副社長を務め、時折スタンダップコメディーの舞台に立つ。

スージー・マイヤソン(アレックス・ボースタイン)ガスライト・カフェの従業員。

エイブ・ワイスマン(トニー・シャルーブ)ーミッジの父。コロンビア大学の数学教授。

ローズ・ワイスマン(マリン・ヒンクル)ーミッジの母。

モイシ・メイゼル(ケヴィン・ポラック)ージョールの父。アパレル工場経営者。

シャーリー・メイゼル(キャロライン・アーロン)ージョールの母。

4. 1950年代から現代へ

『マーベラス・ミセス・メイゼル』は旧体制の社会の価値観と、若い世代の価値観がずれ始めていた頃の話です。ミッジは母親が持つ価値観を受け継ぎながらも、自分だけの生き方を模索します。ミッジの大胆な行動力、機知に富んだ話ぶり、ステージ映えする美貌、そして何よりも、逆境を跳ね除けるエネルギーは、確かな変化を迎える時代にふさわしいものです。また、ミッジのマネージャーであるスージーに対しても同じことを感じます。

舞台となる50年代後半のニューヨークは、様々な文化が変容の兆しを見せていました。40年代にビバップと呼ばれるジャズが人気を博し、作中でも流れるチャーリー・パーカーらの音楽が全盛期を迎えました。また、アレン・ギンズバーグとジャック・ケルアックらがビバップの影響を受けて詩や小説を発表し、ビートジェネレーションと呼ばれるムーブメントを起こしました。ファッション界では、のちにVOGUE編集長になるダイアナ・ヴリーランドが『ハーパース・バザー』のファッションを担当していた時代です。ちなみに、ミッジの衣装もこのドラマのためだけに作られたものがほとんどで、オードリー・ヘップバーン、エリザベス・テイラー、グレース・ケリーなどを彷彿させる素晴らしいものとなっています。
60年代はいよいよ若者文化が花開く時代となります。1963年に出版されたベティ・フリーダンの『フェミニン・ミスティーク』はフェミニズム第二の波の先駆けとなり、後に起こる女性解放運動=ウーマン・リブに対しても大きな刺激となりました。60年代半ばにアメリカ国内ではベトナム戦争に対する反戦運動が起こり、各地で開かれた抗議デモには多くの若者が参加します。

『マーベラス・ミセス・メイゼル』を観て思うのは、時代が変化しても、変わらない人々の姿があるということです。どんなに打ちのめされても、人生という舞台に立ち続けようとします。他の誰かを演じるのではなく、自分自身でありたいというミッジ。それは過酷で、孤独な挑戦でもあります。だからこそ自分の信念を貫く彼女のコメディは、観客に笑いだけでなく、勇気と希望を与えるのでしょう。

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参考資料

https://en.wikipedia.org/wiki/Housewife

https://www.instyle.com/reviews-coverage/tv-shows/rachel-brosnahan-mrs-maisel-golden-globes-joan-rivers

https://www.vanityfair.com/hollywood/2017/03/gilmore-girls-amy-sherman-palladino-amazon-pilot-marvelous-mrs-maisel

https://ja.wikipedia.org/wiki/レニー・ブルース

https://www.vulture.com/2017/11/amy-sherman-palladino-tv-show-elements.html

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