【Movie】選んだその先にあるもの――『T2 トレインスポッティング』


こんにちは、Chiaです。ようやく春らしい陽気が訪れ、東京では桜が見頃を迎えましたね。今週末には映画『T2 トレインスポッティング』が公開されました。

前作『トレインスポッティング』(1996)は世界的なヒットを記録し、ほぼ無名だったキャストや製作陣らを一躍スターダムにのしあげました。なかでも監督のダニー・ボイルは数多くの映画を撮り続けるなか『スラムドッグ$ミリオネア 』(2008)でアカデミー監督賞を受賞、ロンドン五輪芸術監督に抜擢されました。また主人公のマーク・レントンを演じたユアン・マクレガーは、その後ハリウッドに進出し『スターウォーズ』エピソード1~3では若きオビ=ワン・ケノービを演じています。他
のメインキャストであるベグビー役のロバート・カーライル、スパッド役のユエン・ブレムナー、シックボーイ役のジョニー・リー・ミラー、ダイアン役のケリー・マクドナルドらもそれぞれイギリス映画界に欠かせない俳優として活躍しています。

『トレインスポッティング』の続編を製作するという噂を聞いたのは、いつだったでしょうか。インタビューなどから推測するに、噂自体はアーヴィン・ウェルシュの小説『ポルノ』(2002)の刊行以降しばしば出てはたち消えていたように感じます。『ポルノ』は『トレインスポッティング』の続編として書かれ、舞台は『トレインスポッティング』の9年後の世界です。物語は前作の主人公・レントンに代わり、ショーン・コネリー好きで007オタク、女癖が悪いシックボーイによって進行されて
います。シックボーイ、スパッド、ベグビー、レントンの4人は30代半ばの設定で、シックボーイはレントンやスパッドまで巻き込んで、裏ビデオ=ポルノを撮って売りさばこうとします。読み終えた後、チンピラとしか呼べない困った奴らーーー(ただし懐かしい面々)の言動を再び味わった妙な高揚感と共に、題材的に映画化するには難しいのではと思ったことを覚えています。

事実、脚本家のジョン・ホッジの脚本を読んだダニー・ボイルとアーヴィン・ウェルシュは難色を示し、ジョン・ホッジも含めて意見が一致したと言います。ウェルシュはこう語っています。
「脚本が個人的に好きではなかった。皆そうだった。映画の中で映画を表現することも、登場人物たちがポルノ映画を撮ることも、草案では満足にいかなかった」「誰だって、『トレインスポッティング』が築きあげたものを駄目にしたくなかった」(djmag.com)※1
また、ダニー・ボイルとの確執が伝えられていたユアン・マクレガーが続編製作に乗り気ではないことも、ファンにとっては気がかりでした。ボイルは監督した最初の3作品『シャロウ・グレイブ』『トレインスポッティング』『普通じゃない』の主役にユアンを起用しました。それらに続くハリウッド大作『ザ・ビーチ』にも彼を起用すると本人に伝えてあったものの、プロデューサー側からの「もっと有名な俳優を出したい」という意向により、主役はレオナルド・ディカプリオ
に変更されました。ユアンはそれ以来、ボイルはもとより彼のプロデューサであるアンドリュー・マクドナルド、脚本家のジョン・ホッジのことも避けていたと言います。(thegurdian.com)
二人の関係に変化が訪れたのは、ボイルが『スラムドッグ・ミリオネア』でBAFTA(英国アカデミー賞)に出席した時のこと。ユアンがスピーチの台本の代わりに、監督に本心を伝えたのだと言います。
「どれだけボイルと一緒に仕事するのが好きで、現場で彼に会うのが嬉しかったかを伝えたんだ。自分は彼のことを信頼していて、自分のベストの仕事は彼が引き出したものであることも。それから一緒に仕事をしなくなった後の監督作品を全部言ったんだ。作られた順番を、時系列に覚えていた。」(thegurdian.com)※2

このような紆余曲折を経たのち、映画『T2 トレインスポッティング』はオリジナルのキャスト&スタッフを携えて帰って来ました。ガーディアンの記者の言葉を借りれば、それはまるでバンドの再結成。ファンにとって彼らのカムバックが、不安と期待を抱かせるところも似ています。そして、物語が続編である以上、前作を鑑賞することでより堪能できる内容であることは書いておきたいと思います。再結成したバンドに対して、ファンは何を望むのでしょうか。懐かしのヒット曲か、期待を(良い意味でも悪い意味でも)裏切る新曲か、それともただ続けてくれるという存在自体か。『T2』はそれらの要素がすべてバランスよく合わさった作品に仕上がっています。

メインの4人は40代半ば、レントンは46歳の設定。『トレインスポッティング』のラストで、ドラッグ取引で得た16000ポンドという金を仲間から奪い、スパッドだけには取り分の4000ポンドを残して、アムステルダムに逃げたレントン。「俺はリースを出なくちゃいけない。スコットランドから出て行かなくちゃいけない。永久に。すぐに。ロンドンに半年間行くとか、そういうんじゃなく。俺はこの街の限界と醜さを見せつけられた。」(『トレインスポッティング』P.292)
と語っていた、あのレントン。『トレインスポッティング』ではレントンが「人生を選べ」とこちらに語りかけてきましたが、今作では語り手ではありません。物語はレントンを中心として展開しますが、あくまで登場人物の一人として描かれます。

(以下、ネタバレがあるので注意してください)


『T2』では、現在のレントンの生活が順調にいっていないことがわかります。シックボーイと再会した時に、15年前にオランダ人と結婚して子どもが2人いること、小売業の在庫管理システムの仕事をしていることを伝えますが、物語が進んだところで、実はもうすぐ離婚することと、実は子どもの話は嘘で、最初からいなかったこと、リストラの憂き目にあっていること、数ヶ月前にトレーニング中に倒れて手術を受けたことが明かされます。レントン曰く「残りの30年間をどう生きたらいいかわからない」八方塞がりな状況です。戻って来ざるを得なかったのには、妻も仕事も失った彼に唯一残されたものが、自分自身のルーツ=故郷であり、仲間に他ならなかったという事実が浮き彫りになります。※3

他の人物たちについては、より悲惨な状況であることもわかります。スパッドは、レントンが会いにいった時には公団、まさしく『トレインスポッティング』でエイズを患って亡くなったトミーが住んでいたような粗悪なフラットで、薬による自殺を図っていました。20年間ずっとヘロイン中毒で、工事現場での仕事も失い、妻と息子とは別居しています。シックボーイは、ずっとコカイン中毒です。ガールフレンドの売春婦・ベロニカをパートナーに、彼女と客の行為中のビデオを盗撮し、それをゆすりのネタに客から金を巻き上げています。そしてそれがうまくいかなくなると、パブを売春宿(サウナ)に改装する計画を考えて、そのパートナーにレントンを引き入れます。ベグビーは刑務所での刑期を終える前に、仲間の囚人に自分の腹を刺すように指示し、入院した病院を抜け出して妻と息子の元に戻ります。が、その後も犯罪に手を染めます。20年もの歳月を経ても、登場人物たちの本質は変わらず、ドラッグ中毒者はドラッグ中毒者のまま、犯罪者は犯罪者のままです。むしろ経験を得た分、悪いところに拍車がかかったようにすら思えます。

レントンにはやり残したことがあります。そう、20年前に仲間から金を盗んだツケを払わないといけません。幼少時代から共に過ごした仲間ーーースパッドとシックボーイと再会し、かつての絆を取り戻そうとします。ベグビーはまだ刑務所にいると思っていますが、シックボーイがそれを知りつつ隠していたことが後で判明します。どのみち、レントンはベグビーに会えません。仲間のうちで唯一恐れていた人物であり、会うと殺されると知っているからです。ベグビーはいわば過去に生きている人物です。長い刑期で彼は完全に外部の世界とは切り離されていた憤りから、自分の人生を台無しにした(とベグビーは思っている)相手、レントンに深い恨みを抱いています。

『T2』でレントンはシックボーイに「青春の旅人」と形容されるほど、ノスタルジックな気分になっています。それは観客にとっても同様で、作中にあちこちに挿入されている『トレインスポッティング』のシーン、もしくは新しく撮影された幼少期の映像を観ているうちに、彼らがまるで旧くからの友人のような懐かしさを覚えます。前作と同じセット、小道具、音楽もその役割を果たします。郷愁は、現在の彼らの姿を決して見栄え良く描いてはくれません。時間、若さ、エネルギー、健康、未来への希望・・・。20年間で、彼らが失ったものが見えてきます。格好良く年を取ることが、いかに難しいのかと考えさせられます。基本的には何も変わっていないのに。しかしその一方で、彼らが幼少期の頃から腐れ縁ともいうべき強い絆で結ばれ、共生的な関係で互いが成り立っていたのかもわかってきます。

過去への執着は、おそらく仲間との関係性からきているのでしょう。裏切った罪悪感も関係して、レントンは、スパッドからヘロインを抜く手助けしたり、シックボーイと共に仕事をしたり、トミーを弔ったり、仲間とつるんで行動します。また、シックボーイのガールフレンドであるベロニカを口説くために一緒に買い物し、レストランで食事をしますが、そこで「よくシックボーイが言う『人生を選べ(Choose life)』って何なの」と聞かれて、説明する場面があります。2016
年度版の「人生を選べ」を披露することによって。「フェイスブック、ツイッター、インスタグラムを選べ。・・・」

そう、時代は変化しました。舞台となったエディンバラ郊外の港町・リースもこの20年間で変貌を遂げたことがわかっています。すでに『ポルノ』においても、スパッドがこのように街の様子を語っています。「旧いリースは消えてなくなるんだ。トールクロスを見てみなって。いまじゃ金融センターだぜ。前はストッケリーだったストックブリッジは、ずいぶん前からヤッピー御用達の住宅街だし」(『ポルノ』P.293)再開発の波が訪れ、街が変化していることを体感する4人。シックボーイとレントンは「中小企業への支援プロジェクト」に応募します。リースのさらなる発展を約束するビジネスとして、パブをモダンなB&B(実際には売春婦)に改装するというアイディアをプレゼンした二人。結果、見事に採用され、手にしたのは10万ポンド。ここでようやく明るい兆しが見えてきますが、一方ではレントンを追うベグビーが近づき、終盤の展開にもつれ込みます。※4

レントンに復讐を果たしに行く直前、べグビーが息子に「人は変化しないが、社会は変化する」と語るシーンがあります。人は変わらず、今までやってきたことを繰り返し、延長線上にある未来へ手を伸ばしてみるだけなのです。いつか何かを掴むこと、誰かがその手を繋いでくれることを心のどこかで望みながら。残念ながら、ベグビーはそれを知りつつも、自分の中にある狂気や暴力性を抑えられませんでした。
「Be addicted, just be addicted to something else(「夢中になれることを探せ。別のことでもいい」)」とレントンから言われたスパッドは、映画の後半に、過去と仲間との絆から希望を見出します。レントンとシックボーイは、なんだかんだ言いつつもコンビとしての相性は抜群です。もともと悲壮感が薄く、悪知恵が働く二人ですから、いつか売春や窃盗よりましな生き方を見つけるのではないでしょうか。(『T2』で馬鹿なことやってるのは、ほぼこの二人。)そして若く野心に溢れたベロニカには、かつてのレントンの姿が重なります。※5

『トレインスポッティング』はヘロインや仲間と縁を切って、自分の道を切り開く物語でしたが、『T2』は再び仲間と出会い、それぞれの人生が交差するなかで、自分自身を見つける物語です。
彼らは社会に翻弄され、自分の首を絞め、時には押しつぶされそうになりながらも、なんとかまだ立っています。限られた選択肢の中からも、まだその先に続く人生を模索していけるのだと思わされた、鮮やかなエンディングでした。※6

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※1. ウェルシュは「だから数年前、エディンバラの大きな屋敷の中の部屋で、(ボイルとホッジと)数週間一緒に住んだんだ。まだ一緒にやっていけるか、そのやり方を確かめるために」と続けています。
※2. ユアンはその後にレストランでボイルと偶然出会ったときの様子を、こう語っています。「(偶然出会ったときは)ほぼ元カノと出くわした感じだたよ。本当に恋愛みたいな状態だったんだ。ボイルは自分にとって最初の監督で、特にお気に入りの、好きな監督だったから」また、ボイルもこう話しています。「ずっとユアンとは仲違いしていた。私たちがユアンを裏切ったのだと自分は思っていた。(『ザ・ビーチ』の)与えられなかった役を約束していたから」(the
atlantic.com)
※3. 小説版の続編『ポルノ』では、レントンはアムステルダムでクラブ経営者として成功を収めていた設定でした。ドイツ、イビザ、マイアミなど世界中のクラブフェスティバルを飛びまわるという、シックボーイが嫉妬する生活を送っていました。
※4. ベグビーが浮浪者となった父親に出くわした、Leith Central Stationは当時でも使われていませんでしたが、現在はスーパーと屋内遊戯施設になったそうです。また、レントンがアヘンの座薬を落としたトイレ(「スコットランド一(いち)汚いトイレ」と書いてある)に潜る有名なシーンの場所は、Muirhouse Shopping Centreというショッピングセンターの中にあったbookie、つまり賭場の裏でしたが、現在はTelford Learning Centreという大学施設になっています。(edingburph news)再開発の波がここまで。
※5. スパッドは『ポルノ』では『リース史』という本を書いていていました。
※6. ボイル監督は、インタビューでこう伝えています。「最初の映画はより生き生きとしていて、より楽観的だった。彼らの若さがそのエネルギーをもたらしたんだ。そして自己破壊的で、向こう見ずで、混沌としていて、無責任だった。そのエネルギーは魅力でもあったんだ。この映画(『T2』)ではより思慮深くなっている。そこにある希望も、よく考えられている」(theatlantic.com)


参考文献
djmag.com
https://djmag.com/features/t2-trainspotting-‒-inside-trackthegurdian.com
thegurdian.com
https://www.theguardian.com/film/2017/jan/14/ewan-mcgregor-t2-trainspottingscottish-enough
edingburghnews.com
http://www.edinburghnews.scotsman.com/our-region/edinburgh/five-trainspottinglocations-which-have-changed-beyond-recognition-1-4342455
theatlantic.com
https://www.theatlantic.com/entertainment/archive/2017/03/danny-boyle-on-what-to-expectfrom-t2-trainspotting/520227/
アーヴィン・ウェルシュ『トレインスポッティング』角川文庫、1998
アーヴィン・ウェルシュ『ポルノ』アーティストハウス、2003
(Chia@skintmint)

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