【Art】美しさへの眼差しと賛辞/三菱一号館美術館「ジュリア・マーガレット・キャメロン」展 by内山美代子

こんにちは、ガーリエンヌです。
梅雨明けして夏本番、暑い日が続いています。夏の強い日差しを避けるうまいやり方のひとつに、美術館に足を運ぶというものがあります。
今回は、美術史を研究する内山美代子さんに、三菱一号館美術館で開催中の「ジュリア・マーガレット・キャメロン」展のレビューを寄稿していただきました。

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ヴィクトリア朝の英国、芸術家や文化人の交流、手紙や小説―そんなものがお好きな貴方におすすめしたい展覧会があります。作品は夏の暑さを忘れるには十分過ぎるほど美しく、なによりそれを生み出した女性がとびきり格好いい。
三菱一号館美術館で開催中の「ジュリア・マーガレット・キャメロン」展です。 
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19世紀の写真家ジュリア・マーガレット・キャメロンの、日本初の回顧展。約150点の写真作品や書簡などの関連資料を通じて、彼女の芸術表現を鮮やかにみせてくれます。
写真が現実を記録するものとみなされていた時代に、芸術的な表現に挑戦し、写真史に革命をおこした女性。初めてカメラを手にした時の興奮、果敢さと美への切望、被写体の個性を焼き付けることに全精力を傾ける姿……。彼女の一直線で情熱的な姿勢は、どこか微笑ましく、そして魅力的。娘夫婦からカメラを贈られたことをきっかけに、彼女が写真を撮り始めたのは、48歳の時でした。
私自身も何かに没頭し、情熱を注ぐ時間が心底好きです。キャメロンのように、年を重ねても新たな「何か」に出会ったら臆せず飛び込んでいく人でありたいと思っています。キャメロンは私のロールモデルですが、展覧会をみて改めて「なんて素敵な人なんだろう」と思いました。

《アニー》1864年

《アニー》1864年


この展覧会の面白いところは、各章がキャメロンの書いた手紙からテーマを導き出し、構成されているという点です。彼女の鮮烈な言葉の数々も見どころのひとつでしょう。冒頭で紹介されるこの一節には胸打たれます。「私の夢は、詩や美しいものに精一杯身を捧げ、真実をまったく犠牲にすることなく理想と現実を組み合わせることで、写真の品位を高め、写真にハイ・アートの特徴と有用性をもたらすことです。」
《ベアトリーチェ》1866年

《ベアトリーチェ》1866年


キャメロンは、クローズアップの先駆者で、意図的にピントをぼかした状態で撮影した最初の写真家でもあります。伝統にそむく手法は凄まじい批判も浴びますが、その独特の手法で、被写体の内面を映し出す肖像写真を生み出します。作家や芸術家、思想家達と親交があったキャメロンは、彼らの写真を撮っています。詩人のテニスンや画家ジョージ・フレデリック・ウォッツ、チャールズ・ダーウィンなど、ヴィクトリア朝の著名人達の肖像写真は、この時代が好きな人には必見です。彼らの内面が眼前に立ち上るような力強さがあるのです。
《五月祭》1866年

《五月祭》1866年


彼女は被写体を聖書や物語の登場人物に扮装させた写真にも挑戦しました。女性モデル達を「仮装」させて撮った写真は、夢見るように優美です。展覧会では主要なモデルとなった5人の女性が紹介されていますが、キャメロンのこの女性達の美しさへの眼差しと賛辞は、個人的に強く推したい見どころです。
《ハーバート・ダックワース夫人》1872年

《ハーバート・ダックワース夫人》1872年


キャメロンの姪、ジュリア・ジャクスン―ヴァージニア・ウルフの母親、美しさで知られエドワード・バーン・ジョーンズら多くの画家のモデルとなった人物―も主要なモデルのひとり。キャメロンの写真の中で、ジュリアは他の女性モデルのように物語の中の人物として表現されることはなく、ありのままの姿で映し出されました。キャメロンにとって姪ジュリアは「特別」だったのでしょう。妖精のような女性達の写真もロマンティックですが、私はこのジュリアを写した写真に一番心惹かれます。特に、彼女がカメラを見つめる写真には深い趣きがあり、その前から離れがたくなります。

「手紙」がキーとなっているこの展覧会ではキャメロンの手紙も(その生き生きとした筆跡も)みることができます。鑑賞後は私も手紙を出したくなりました、「貴方におすすめしたい展覧会があります」と。
(9月19日まで開催)
※画像は全てジュリア・マーガレット・キャメロンの作品、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館蔵 ©Victoria and Albert Museum, London

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内山美代子 プロフィール
大学の美術史研究室の助手。
女性同士の関係性を描いた物語が好き。 好きな探偵はクリスティーのミス・マープル。

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