【Book】あなたの女子ミス、私の女子ミス/『読み出したら止まらない!女子ミステリー マストリード100』

こんばんは、@vertigonoteです。先日の花園magazine SUMMER PARTYにお越しいただいた皆さん、ありがとうございました。初めてお越しいただいた方もたくさんいらっしゃったのですが、終始どのテーブルでもマッドマックスの話題が盛り上がっておりV8コールで乾杯するという謎の素敵女子会になっていたように思います。定期的にまた開催していきたいと思いますので是非よろしくお願いいたします。

女子ミステリーさて、今週は夏休みをとられている方も多いのではないでしょうか。映画やライブやビアホールなど楽しみがたくさんある夏ですが、その合間にちょっと読書でクールダウンする日はいかがでしょう?ということで、本日ご紹介するのは「何を読もうかな?」と考え中の皆さんにきっとピンとくる1冊が見つかりそうなブックガイドです。『読み出したら止まらない!女子ミステリー マストリード100』『海外ミステリー マストリード100』『国内ミステリー マストリード100』に続くマストリードシリーズの1作なのですが、この「女子ミス」というテーマがとても素敵。

最初に「女子ミス」と聞いたときにははミステリー要素が含まれたチックリットと「少女・乙女」もの、あるいはフェミニズム要素が含まれたものを指すのかな?と思っていたのですが、どうやらそういう作品も包括されつつ、定義としてはちょっと違いそう。真夜中の相棒もちろんコージー・ミステリーやゴシック・ロマンも含まれてはいるのですがここにはロマンス小説もあり、児童文学もあれば時代小説もSFもライトノベル寄りと思われる青春ものもあるし、『ウィンブルドン』や『真夜中の相棒』といったブロマンティック・サスペンス/ノワールも並列で取り揃えられています。どうやら女子ミスは必ずしも、女性によって書かれる必要はないし、必ずしもメインキャラクターに女性がいる必要はないみたい。

ではなぜ女子ミスと名乗るのか。以前ツイッターで著者の大矢博子さんが呟かれていたこの内容にその答えがあります。そして私は勝手にそこに一種の「名乗り返し」の意図も感じています。陳腐な恋愛描写が描かれると「出来の悪い少女漫画」「(ロマンス小説の代名詞としての)ハーレクイン」という言葉がどちらのジャンルの愛好家でもない人から聞かれるたびに「うう、なめんなや……(いやまあ確かに酷いのもあるけど……)」という心の声をあげてきた人に、ジャンルが内側から挙げた「ジャンルの豊潤」を示すための言葉。家やファッションや料理や仕事のディテイル、魅力的なキャラクター全部を含めて「うっとりできる要素」が物語と切っても切れないからこそ成立する、いわゆる「女性/女子向け」というタグづけがされているものはすべて「女子ミス」ってカウントしちゃいましょう!という素敵に明るいこの定義づけにふさわしい「ときめきのエンターテインメント」作品が次々と登場します。

ノーサンガーアビーこの本のなかでセレクトされた「女子ミス」の傾向のひとつの要素としては「懐っこさ」があると思います。ジェイン・オースティンの『ノーサンガー・アビー』を女子ミス文化の開祖として扱う(だから『あしながおじさん』も花園magazineでも以前とりあげた『青い城』も女子ミスに入っているのが嬉しい)ところから始まりますが、世界中の古典とされているものも、今現在新作がガンガン売れている日本の作家も隔ててないのが一貫していてとても素敵。「これを読む趣味のいい私が好き」というのもまた読書の楽しみではあると思うのだけど(ちなみに私はかつてはこういう価値観を否定したいと思ったけど、今はそれはそれで価値あるものだと思っています)少なくともこのマストリードに出てくる本は良い意味でもっとミーハー、「これを読んでないと女子ミスではモグリ」「これは一般的エンタメすぎて女子ミス枠には入れられない」という判断はどうも全くなさそう。やっとかめミステリファンが趣味がいいねと唸るようなお洒落ディレッタント感覚、あるいは上質な紅茶とともに美しく整った部屋で読まなくてはならない雰囲気は薄く、もっと素朴に日常的にある読書の風景――残業帰りの電車で疲れた脚でふらふらしながら吊革につかまって読んだり、夏休みに実家で畳に寝っころがっておせんべかじりながら読んだりするのが似合う雰囲気がある小説群もたくさんチョイスされているのが嬉しい。だいたい私、女子ミス枠に『やっとかめ探偵団』が出てくると思わなかった……!でも確かにあれは良いかしましおばあちゃんハードボイルド=婆ドボイルドであります。

仮縫オリガ・モリソヴナの反語法個人的に「女子ミス」枠に紹介されるのが特に新鮮で嬉しかったのは近年読んだなかで最も落ち込みながらも拳を握る覚悟を決めさせてくれた「私(女性)の身体は誰のもの」ディストピアSF、マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』、「大丈夫」って言いながら全然大丈夫じゃない女性警官たちの痛みを皮膚に刻むように描く連作短編集ローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』、昨年読んであまりの面白さに悲鳴をあげ、今もマイブームが続いている有吉佐和子のファッション小説『仮縫』、もうひとつの『卵をめぐる祖父の戦争』としてもっと読まれて欲しい!と思っていた米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』あたり。もし花園magazine読者の方で未読の方がいらしたら是非一読をお勧めいたします。

ファージングそしてこうしたブックガイドでは「これが入ってない!私ならあれを入れたい!」というのを考えるのも楽しみのひとつです。私がここにあがっていない重要作を挙げるとしたら……
■ジョー・ウォルトンのファージング3部作。(これについては本当に繰り返しいろんな場所で語っているので割愛しますが、英国版『大奥』であり『イングロリアス・バスターズ』であり『ベルサイユのばら』である稀有な歴史改変エンターテインメントだと思っています)
haiiro貴婦人と一角獣■ジェラルディン・ブルックスの『灰色の季節をこえて』。寄る辺なく頼りなかった主人公アンナが自らを奮い立たせて閉鎖された村のペストという災疫と戦い、最終的に「自分」を獲得していくまでの物語に通奏低音として響く、差し伸べられる互いの手のぬくもりを決して離すまいとする女性たちのシスターフッドが美しく、「謎が解かれる物語」としても大変良くできています。
■実際は目的もモデルも謎である実在のタピスリーに「ありえたかもしれない」を託してミステリーに仕立てたトレイシー・シュヴァリエの「貴婦人と一角獣」。愛すべきクズなプレイボーイの絵描きニコラを中心に、人々の諦めと希望と哀しみと歓び、特に美しく逞しい女性像が織り上げられるさまにひたすらわくわくしました。これを読んだ直後に現物を見るという幸せな体験ができたのは嬉しかった。
■ミステリー要素もあるSFなのだけど、何より「働く女の子もの」としてまっとうな職業意識が(スレた私にはちょっと眩しいけれど)嬉しい小川一水『妙なる技の乙女たち』。特に入社5年目以内くらいで目の前の仕事はつらくて倒れそうになりながらもやり遂げてしまう頑張り屋の20代の女子たちには楽しい「女子ミス」だと思います。
■女の子ふたりものならルル・ワンの『睡蓮の教室』、須賀しのぶの『芙蓉千里』、有吉佐和子の『芝桜』も良き女子ミスとして推したい……!

とまあ、読めば読むほど次から次に私のなかの「女子ミス」が思い浮かび、語りたくなる。そしてもちろん同時に「読みたい本」も増えていく。そんな体験ができるのも「女子ミス」が好きなあなたや私だから。おそらく花園magazineを読んでいただいている人にはきっと何か、響くものがあると思います。このマストリードを介して、あなたに善き女子ミスとの出会いが増えますように!(@vertigonote)

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