【Movie】あなたが結ぶわたしの気持ち。~靴紐男子考~

file9891250786975こんにちは、@vertigonoteです。
恋人1
先日ラピュタ阿佐ヶ谷で見てきた市川崑の『恋人』(1951年)は非常に魅力的なキューティー旧作邦画で、素晴らしい「両片想い」映画でした。きっとこれからアニー・ローリーのメロディを聴くたび私はこの映画を思い出すことでしょう。
恋人
明日に銀行員の男性との結婚式を控えたチャキチャキお転婆なお嬢さんの久慈あさみは、ちょっとぼんやりしたところがあるけど気のいい幼馴染の池部良の気持ちを知ってか知らずか、映画を見たりスケートしたりダンスホールに行ったりと、1日中デートに振り回す。楽しい時間はやがて終わりに近づき――娘の本心を「狡さと純情が入り混じってる」としれっと見抜きながら信じて見守る元外交官のパパと天然気味のママ(千田是也と村瀬幸子)の描き方も優しく、ラストカットには胸がいっぱいに。どうしてだかタイミングがあわなくてうまく恋人になれなかった片想い同士のふたり、大切な言葉はいつもちょっとだけ間に合わない。想い出だから綺麗でいられることにどこかで気づいているような聡明なふたりが恋の手前で立ちすくんでしまった感覚が爽やかで愛しく、昭和のデート映画の傑作でした。ソフトも出ているので、機会があれば是非花園magazine読者のみなさんにご覧いただきたい作品です。

ところで私は「靴紐を結んでくれる系男子」という概念を提唱しています。

実は必ずしも物語としてはうまくいく/うまくいかない、とも言い切れないのですが、綺麗におさまるカップルよりも「運命の相手なのに」という切ない関係の「幸せな瞬間」の象徴として、よくこの「靴紐を結んでくれる男」というのが象徴的に登場するように思うのです。『恋人』でも男の子が跪いて女の子のスケート靴の紐をパッパッと結んであげるシーンが登場してアッ、と思いました。

追憶このことを初めて考えるようになったのはロバート・レッドフォードとバーブラ・ストライサンドの『追憶』を見たときでした。決してわかりやすい美女とは言いづらいうえにある種の非モテ体質なヒロインであるところのバーブラ・ストライサンドのほどけた靴紐を結んでくれるのは、根っからのナイスボーイで見た目も麗しくて屈託のない男、レッドフォード。彼は彼女を、彼女は彼を愛している、けれど一緒に居続けることは彼女が彼女であり、彼が彼であり続けるためには難しい。その二人の互いを好きな理由も一緒にいられない理由もあのシーンの印象からすべてつながっているように感じたのです。

ぼくの美しい人だからこの「靴紐を結ぶ男子」がそのままポスターに使用された例もあります。若いエリート男子とウェイトレスの中年女性の身体から始まるメロウな恋愛物語『ぼくの美しい人だから』は扇情的なDVDパッケージよりもこのシーンをチョイスしたポスター版のトーンが(少なくとも映画版については)似合う気がします。これも根本的なところで互いを愛しながらも、同じように生きられない種類のふたりが戸惑いながら、はたしてうまくいくのか、どういう選択をするのか、という物語でした。

이미지1韓国映画『素晴らしい一日』は元カレに貸したお金を返してもらうため、ヒロインが一日彼に張りついて過ごす話。どうにもノンシャランで適当すぎるハ・ジョンウに苛立ち続けるチョン・ドヨン。しかし意に介することなく彼は当たり前のように跪いて彼女のほどけた靴ひもを結んでやるのです。色んな種類の女性に愛されることを自然に受け入れてきた男が、誰にでも、女性に対しては特に優しく、それゆえに「彼女」を傷つけることになる、という傾向。彼女はそういう彼が好きだったけれど、でもやっぱり苛立ってしまう関係なのは間違いなくて、彼も「でもこれが僕だしねえ」という感じで、そこにまた彼女はイライラする、そういう関係。せつない。

昨年の東京国際映画祭で上映された『黄金時代』にもウィリアム・フォンとタン・ウェイの間に「靴紐」シーンがありました。ふたりがいちばん無敵だった頃。

そういえば『追憶』を見るより前に私が「靴紐ってロマンティックだな……」と思ったのは別に男女じゃなくて『フェイス/オフ』の兄弟の関係を示すスニーカーの靴紐でした(ニコラス・ケイジがいつも弟のアレッサンドロ・ニヴォラの靴紐を結んでやっている)。昨年公開されたインド映画『チェイス!』に出てきた靴ひもネタはこのオマージュなんかじゃないかしら?などとも思ったり。せつない関係性にときめく映画に性別はもちろん、ロマンスが介在するかどうかももはや関係はない!(というとちょっと大袈裟かもしれませんが、でもそういう感覚は私のなかに確実にあるのです)

この「靴紐を結んでくれる男の子」の概念を以前twitterで呟いたところ、「そういえば“たけくらべ”はじめ日本の小説や映画にも鼻緒をすげかえてくれるのがトキメキシーンになっている事例って結構あるのでは」「タイタニックも靴紐映画ではなかろうか」というような意見が寄せられました。考えてみれば、確かに……「靴紐を結んでくれる男の子」というのは伝統的に甘酸っぱくせつない場面になると同時に「このふたりが幸せでいてほしいけど、そのままでいるのは難しい」ように予感させるものになっているのが多いようにも思います。これからロマンティックな映画を見る際には、ちょっと注目して見てみると、面白いかもしれませんよ?(@vertigonote)

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