【Book】ほとんど理不尽な情熱~愛するジャンルを語る言葉

young_readerこんばんは、@vertigonoteです。以前から何度か語っている気がするのですが、私は誰かが好きなことについて熱く語るのを聞くのがだいすき。読書の秋、そんな「声が聞こえてくるような」特定ジャンルへの愛情があふれかえっている本にあなたも触れてみませんか?

乙女の読書道最近(今更ながら)読んで微笑みがとまらなかったレビュー本は池澤春菜さんの『乙女の読書道』。本の雑誌連載の書評を中心とした読書コラム集です。実は最初のページを開いた段階では「乙女」と冠するとあればパッケージだけじゃなくてジャンルとしても女子カルチャーに触れてくださるかしら?ロマンス小説が軽んじたりされてないかしら?字も大き目だし物足りないことはないかしら?どんな方向に攻めていらっしゃるのかしら?などと小うるさくめんどくさい目線の女史モードで期待と不安同量くらいで構えて読み始めたのですが……これは楽しい!「これ、本当に面白いんだよ!」って隣の席の女の子が目をキラキラさせて話しかけてくるようなまっすぐで正直な語り口に、すっかり魅せられてしまいました。

セレクトのメインとなっている彼女のいちばん好きなジャンルであるSF、ファンタジーへの尽きない愛情が溢れ出して止まらなくなっている様子がたまらない。「説明のしづらいものの描写が続く怪奇風味の小説」を薄ボンヤリ系と称し、「作者が七、なら翻訳者は三、場合によっては五:五」で本をチョイスする感覚に深く頷く。ハヤカワ文庫のトールサイズ変更に悲鳴をあげているのも、本好きには親近感抜群。「本が!紙の本が!手元にないと!本当につらい!」と叫びまくる電子書籍体験記のあとに収録された「書く人」としての父や祖父への想いが端々に滲んだエッセイ『向こう岸の父と祖父』にはぐっときてしまいました。(コラムのほうでも時に父や祖父の本もあえて避けることも内輪的な秘話にすることもなく、ごく自然に紹介するフラットな感覚が心地よいです)秋の夜長におすすめ、というディレイニーの『ノヴァ』や「トランスパレントペーパー、あるいはスピログラフのよう」という平田昌夫の『水の中、光の底』あたり、とっても読んでみたくなりました。

たとえ「完璧に好き」じゃないものだとしても、その理由や「こういうのが好きだったらおすすめできる」ポイントを丁寧に拾っていく、その「オススメ力」の高さには、花園magazineで本や映画のレビューを書く姿勢として学んでいかねば!と思ってみたり。

「特別に愛するジャンル(作品)への想いを、どこかの誰かに伝えようとする」文章の圧倒的熱量。それを友人は「ほとんど理不尽な情熱」と言い表しました。けだし、名言。「理不尽なまでの」パワーはジャンルの枠を超えて共通する精神を感じます。

この感覚は数年前にシュミじゃないんだ三浦しをんさんの『シュミじゃないんだ』を読んだときにも覚えたものでした。妄想の激しさと愛ゆえに暴走する女子魂を炸裂させて綴られる、潔すぎていっそ眩しく美しいジャンルへの思い入れ!BL漫画レビュー集『シュミじゃないんだ』がリアルに布団にひっくり返ってジタバタしてしまったほどの楽しい読書体験になった理由はその「愛するものを語り、伝えたい」という想いが全てをなぎ倒していく勢いにありました。ドライヴ感あふれる文章の楽しさといったら! 鋭くて絶妙に可笑しな言語センスが最大限に活かされた「春を抱いていた」と「新撰組!」のパートでは笑い死ぬかと思いました。

耽美とボーイズラブの違い(だと著者が感じること)を「ポップ」という感覚と例文だけである程度把握させてしまうところだったり、「運命の相手」の限界という鋭い指摘がちゃんとなされているところはBLも含めて「物語(ロマンス)」を愛する者として頷くこと多々。それでいて「職業カタログとしてのBL」や「ファンタジーが難しい理由」なんて切り口で語れるのはジャンルへの耽溺あればこそだし、入門として最適。いや、別に入門したくないよ!という人も多分これを読んだら「敬遠してきたけどここで語られているものならちょっと読んでみたい」と思うのでは。 そして、それこそがひとつのジャンルを愛する者が書くレビューにおいての【あるべきカタチ】なのでは?なんて襟を正す。

自分で泥を被ってみるのも、独自ではあれど筋の通った倫理観も、「昔はよかった」をやらないところ(いろんなジャンルにおいてロートルはどうしても陥りやすい罠だと思うのです)も、本当に素晴らしい。正直にいえば、これを参考に色々と読んでみたものの「あっ、あわない…」となって撃沈した作品も多いのですが、それはまた別の話……もちろん、これが刊行されてから現在まででもジャンルの内外では変化が続いていますし、アップデイト版もまた出してほしいな!と願っているのです。

vシネマ実は最近発行されたVシネマレビュー集、『90年代狂い咲きVシネマ地獄』にも同じものを感じました。どう見てもコンビニムックなビジュアルにこのタイトルにこのフォント、この色使い。一見、まあ、あの、花園magazineが取り上げる女子カルチャー的な文脈にあるもの……ではないですよね。それがこの本、開いてみれば『乙女の読書道』や『シュミじゃないんだ』と同じ種類の魅力があるのです。

ほとんど見たことない(というより今となっては見られない作品も多い)タイトルが並ぶにかかわらず、なんだかとてもワクワクしてくる。どの評者さんもとてもパーソナルな部分での「突き動かされた」ポイントを書かれているのが面白い。愛と涙と爆笑(ときどき恐怖)のバブル残滓の文化史には、いろんな側面がある。スタッフや技術面という角度の方もいらっしゃれば、俳優のフィルモグラフィにおける位置づけ、ゴシップや時代性という角度からみる方も、「見ているときの感覚」重視の方もいる。ただ、表現方法や文体は異なってもすべてに「これ、なんかすっごい(良い/酷い/楽しい/わけわかんない/どうしようもないetc)映画なんすよ…!」と語りたい!という衝動と情熱をひしひしと感じる。

つくづくパンチラインをガンガンぶっこめる人が羨ましくなる、言語的反射神経に優れたレビューがたくさん。意外なほどに「漢」感がないのも嬉しく、「おもしろがること」に男女は関係ないよね、という意識もうっすらと感じました。実は紙版の花園magazineのデザイン・DTPを担当していただいている藤谷千明さんもレビュアーの一人として参加されていたりします。

「Vシネにこんな傑作が」という方向じゃなくて「これはない」「これはひどい」「うしろめたい」「というかエグい」「ゲスい」も含めた雑多なもの、欲望の荒野たる面があるから面白い、「単純にまとめられてたまるか」という編者の高鳥都さん(同世代で10代を過ごした地元も近いので微妙に親近感)のスタンスはとても好み。読んでるうちに暗いビデオ屋のなかでもひときわ暗いところにあるVシネ棚前で時間を忘れてかたっぱしからパッケージを取り出しては眺めていた私自身の高校時代の記憶が蘇ってきました……そう、このジャンル結構好きだったんですよ……実際に見てる作品は多くないのですが、その「男装した男」文化圏にやたらと惹かれていた、ことがあるのでした……(遠い目)。

そうそう、『乙女の読書道』のなかに、こんな1行がありました。

“誰かに何かを伝えたくて書いた本は、どこかに純粋を秘めている。”

ある「倫理的にかなりとんでもない小説」を紹介した文章のなかにあったフレーズです。ここに挙げた3冊にはすべてこの「純粋」があるように思いました。正直なところ、私はSFもファンタジーもBLもVシネも詳しくありません。“好きな物語”の方向性としてもそんなにぴったりはこないんだろうな、と思う作品も多い。でもこうしたレビュー集で「これね!すごいんだから!」って声が聞こえてくるような文章を読むのが本当に好き。誰かの「理不尽な情熱」は「純粋」の別名なのかもしれない、なんて思いながら、秋の夜は更けていくのです。(@vertigonote)

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