【Movie】つないだその手があたたかいから/『メイジーの瞳』


こんばんは、@vertigonoteです。アカデミー賞シーズンが近づき、例年たくさんの映画が公開される時期ですが、なかでも今週末は必見作が重なっています。見たい映画がいっぱいで悲鳴をあげてる方も多いのではないでしょうか。『アメリカン・ハッスル』に『ウルフ・オブ・ウォールストリート』に『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』……楽しみな作品が私もたくさんあるのですが、ビッグタイトルの間でささやかに咲いたスミレの花みたいに愛おしい、見逃せないかわいくて、あたたかくて、ほろ苦い作品がひとつ。『メイジーの瞳』を今日はご紹介いたしましょう。

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■ミュージシャンのママと画商のパパが離婚することになって、両親の家を10日ごとに行き来することになってしまった6歳のメイジー。気づけばベビーシッターだったマーゴが、パパと再婚。ママはあてつけのように「昼間にメイジーの面倒をみてくれる若い子」であるバーテンダーのリンカーンと再婚。やがて忙しい両親が次第にそれぞれのパートナーにメイジーを任せがちになり、いつしかマーゴとリンカーンと過ごす時間がほとんどになっていくメイジーの日常は、とっても楽しいんだけど、なんだかちょっとややこしい状態に……という“ちょっと不思議な家族のかたち”を見つめ続ける女の子の話がとびきり愛おしくなるのは、「6歳なりの背丈で、せいいっぱい背伸びした」主人公メイジーの視点に徹して描かれているから。

■もしかしたら、6歳くらいのお子さんがいる(いたことがある)お父さん・お母さん方からは、リアリティという面であの年であんなふうに手をわずらわせない綺麗な子が存在するというのはファンタジーだというご指摘があるかもしれません。でも、これはメイジーに見えている世界の話。「わたし」の目に映る世界の輝き、ちょっと寂しくてときどき大変な日常のなかに「メイジーが知ったこと(原題:WHAT MAISIE KNEW)」のすべてがある、という物語なのです。
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■せつないのはメイジーはノーを言わず、いつも黙るか「うん」で答え、大人の前で涙は見せないでいることに慣れていて、極端なほどに手がかからない「いい子」なセレブキッドであることなのです。パパのおうちの子ども部屋でふうん、というような表情をして窓辺のおもちゃを手に取るとき。ママがリンカーンになぜか苛立っているとき。困惑しながらも一生懸命「私がどういったらみんなが困らないかな?」と考えているような思慮深い目。どんなときでも「泣いちゃだめ、泣いたら楽しいことが逃げていっちゃう」とでもいうように笑ってみせるメイジーのなんて健気なこと!

■まだうまく思いを言葉にできない彼女の表情から伝わってくる感情は本当に雄弁です。ワイルドで、子どもっぽくて、気分の上下が激しくて、でも遊んでくれると楽しいし眠るとき歌ってくれるからママも大好きだし、皮肉屋で綺麗好きで仕事人間だけど私のこと笑わせてくれるパパも大好き。わたしが好きなものと好きじゃないものがわかってるマーゴとも一緒にいたいし、大きくて優しくてたくさん遊んでくれるリンカーンも大好き。だからみんなと一緒にいたいのにな。楽しいことだけ見ていたいな。なんだけど、どうして一緒にいるの難しいのかな。みんなからも愛されてるのはわかるし、わたしも愛してるんだけどな。泣きたいなあ。でも泣いたらみんなが困るから泣けないなあ。

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■象徴的なのはリンカーンがつくってくれたささやかな食事、綺麗に盛り付けられたお皿を嬉しそうにじいっと見ているメイジーの姿です。「食べないの?」と聞かれて、彼女は小さな声で答えます。

「……壊したくないの」

そう、彼女は「今」の素敵な時間をそのままにしていたいだけなのです。

■その「壊したくない」の切実な思いは、大人たちの手にしがみつくメイジーの小さな手にも表れています。誰かの腕に小さな腕を絡ませ、手をつないで歩くときの安心しきった嬉しそうな様子。多くを喋らなくても、小さな彼女のさびしさやこころもとなさが、その小さな手から痛いほどに伝わってくる。そんなメイジーは、最終的にどこにその小さな手を差出すことになるのでしょうか?

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■メイジーがすっかりなついてしまうママの再婚相手、リンカーンを演じたアレクサンダー・スカルスガルドはこちらの鼎談でも話題になったとおり、魅力全開。オーディションがわりにメイジー役のオナタちゃんと一緒に遊ぶことになって「嫌われたらどうしよう」って内心ドキドキしてたというエピソードも最高。この映画をきっかけに彼のことを好きになる人はきっととっても多いはず。マーゴ役のジョアンナ・ヴァンダーハムもとても感じがよく、メイジーに寄り添われたあたたかさについ微笑んでしまう瞬間の泣き顔スマイルが忘れがたい魅力です。
また彼らが魅力的なのは設定上当たり前ともいえるのですが、素晴らしいのはジュリアン・ムーア演じるママがリンカーンが大好きなメイジーを「奪ってしまう」ことが怖くて敵意を表明する表情や、スティーヴ・クーガン演じるパパがメイジーを振り回していることを自覚している様子がきちんと描かれているということ。この映画の素晴らしい点はそのフェアネスにもあると思いますので、そのバランス感覚にも是非ご注目を。
What Maisie Knew

■自由すぎる親に振り回されるこどもはつらいよ、という映画としては、昨年見た『ジンジャーの朝 さよならわたしが愛した世界』や『ハッピー・イヤーズ』なども印象に残っていますが、メイジーはそのなかでいちばん小さな女の子。たった6歳で世界に対峙する「史上最年少のハードボイルドこども映画」なのかもしれません。
「大丈夫、こどもは案外強いんだよ!悲しいことがあっても楽しいことがあったら元気になれるよ!パパとママとマーゴとリンカーンはみんな家族だよ!」といわんばかりに駆け出していく小さなメイジー。その姿は立派なハードボイルド・ガール。犯罪や暴力が描かれていなくても、自分の周囲の世界とどう対峙するかという孤独な戦いの物語があるところには、いつだってハードボイルドの魂が存在するのです。

本日1/31から公開ですので、気になった方は是非!http://maisie.gaga.ne.jp/
(@vertigonote)

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