【Book】【Movie】【Music】暗黒乙女的HIT LIST2012

改めまして暗黒乙女部門担当@vertigonoteです、こんばんは。ホリデイ・シーズンでも相変わらず陰鬱で呪わしい映画や小説や音楽を楽しんでいる私ですからして(ただ今トマス・H・クックの『緋色の記憶』を読んでおります)、今年を振り返るとき、やはり暗黒乙女同盟(別名乙女ヘルファイアクラブ)ならば語りたくなる作品に出会ったことを記録しておかねばなりませんよね!題して暗黒乙女的HIT LIST2012。さっそくいってみましょう。

<読書編>

オードリナ上下
オードリナ〈上〉 オードリナ〈下〉 /V.C.アンドリュース

私はオードリナ。小さなオードリナ。9歳のとき男の子たちに犯されて殺されてしまった、美しくてやさしくて完璧だった姉の名をつけられた女の子。狂った時計、狂ったカレンダー、唐突に飛んでしまう記憶。何かがこの屋敷はおかしい。お母さんも、お父さんも、母の姉であるおばさんとその意地悪な娘ヴェラも、何かを私から隠してる。せっかく知り合いになった男の子のことも、お父さんは遠ざけようとするし、その綺麗なお母さんも何か秘密があるみたい・・・

狂い咲き通俗暗黒乙女文学の巨匠V.C.アンドリュースの原題「私のかわいいオードリナ(My Sweet Audrina)」は本当におそろしくて哀しかった。主人公オードリナに「前のオードリナ」が持っていた力を引き継ぐようにと強要し、母の才能を「家」に押し込めた過去を「君のためだ」と有無を言わせず、その姉には限りなく残酷な仕打ちをしても気にかけることもなく、彼女の娘の虐待に力を貸す、「如才なく、ハンサムで陽気で優しいアメリカの父」の圧迫感が強烈。何が怖いと言って諸悪の根源はこの「父」なのに、彼のことを主人公含めて出てくる女たち全員が愛しているのです!この絶望感!「綺麗な私の娘」への渇望の背景が分かったときの(ミステリーとしては割とありきたりなのに)心底恐ろしい「男が所有物として女性身体にかける呪い」の深さと、ラストのオードリナの行動には本気で震えました。

マッドアップル

マッドアップル (創元推理文庫)/クリスティーナ・メルドラム

アスラウグは今、殺人未遂と第一級謀殺の容疑にかけられている。私が母親とおばといとこを殺したの?そんなはずはない、のだけれど。社会と切り離されて育った、出生の記録がない娘、アスラウグとは何者で、彼女は本当に犯罪を犯したのか?という設定。そしてこの表紙!これだけでもう期待せざるをえない!という感じで暗黒乙女同盟のみなさんをざわめかせた作品。

個人的には期待しすぎたせいか、6割満足、3割残念、1割は評価は次作まで持越し、という感じ。アスラウグが教会にたどりつくまでの前半、下界から遮断されて自然だけを信じるように育てられた母娘関係はゾクゾクします。娘を憎んでいるかのような母と彼女に愛されたい娘。やがて訪れる母の死と行き場をなくした娘の脱出――ここまでは「魔女になる女たち」の話で優れた暗黒乙女文学調。しかし「伯母」とその子どもたちが出てくる途中の展開からは因習と信仰の物語になってしまうのでちょっと「あれ?」というかんじに・・・ただ、法廷パートもうまく、なかなか読ませる作品でした。主人公に対して繰り返されるアスラウグ・ダター(娘)という呼びかけがいいですね。この呪文のような美しい響きの名を与えられた時点でこの小説は半分完成していた気がします。

<映画編>

KEVIN_Tilda_Swinton_Jasper_Newell_01-640x320『少年は残酷な弓を射る』

2012年、「母という暗黒乙女」作品としてはこれが最高峰。全編を通して胃液がせりあがってくるようなホラーで、見終えてしばらく動悸がおさまりませんでした。赤、赤、赤、赤、赤。トマト、缶詰、ペンキ、口紅、塗りたくられたジャム、絵の具、不自然なドレス、血の惨劇。呪われた赤、赤、そしてまた赤。洪水のような赤のヴァリエーションと不協和音を重ねた音響設計にひたすらにギリギリと神経を責め立てられ、身をよじりながら耐えるしかない112分。大仰なショック演出だと思いながらも、どうしていいか分からない感情で皮膚がチリチリと粟立ち、二度と見たくない傑作に出会ってしまった心許なさに、見終えた後にやたらと饒舌になっていましたよ・・・。

これは今は子どもなしだけど将来は持つかもしれない、でも子どもを持つことの枷が恐怖、という私のような女にとって最も怖い話なのかもしれません。おそらくそれゆえに冷静な評価じゃなく、女性性にセットされる“ことになっている”「子を求める気持ち」と「子どもなんてほしくない」の二律背反に伴う罪悪感込みでの評価。「自分にとっての切実さ」の種類は恐怖の度合いを大きく変えるものなのだなとつくづく。だからこの映画が怖くない人がうらやましいような、うらやましくないような。 終始具合が悪そうなティルダ様も素晴らしかったし、何よりエズラ・ミラーの「少女マンガの魔性の美少年」顔にやられました。パーフェクト。

the_woman_in_black_4 『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』

 「死んだ子たちの声を聞いてしまう」「呪いの女」の物語なので『永遠のこどもたち』meets『リング』といったプロットには正直新しいところが全くなく、「なんで今これを?」「どっかで見た…」という気もしますが、これは「怖さ」よりも19世紀末英国の陰鬱をつかまえた確かな手腕が光る佳作。イールマーシュのお屋敷、墨を掃いたような黒衣の女の亡霊、狂気に囚われた婦人、そして禍々しい子どもたちのヴィジュアルがいちいち素晴らしい。何かに呼ばれたように人形やティーセットを踏みつけて3人の美しい少女たちが1点を見つめながら揃って窓辺に向かっていく冒頭のカットから釘づけに。曇ったガラス窓から主人公を見つめる女の子。灰色の砂浜に佇むマリン・ファッションのルノアールの絵から出てきたような幼児のバラ色の頬。炎の中の無表情少女。

実は「黒衣の女」がはっきりと顔を見せてしまった瞬間にこの魅力が半減、ほとんど『スペル』状態のポルターガイスト祭化する館内のシーンの数々はどう考えてもやりすぎ、見せすぎで、怖いというよりただただ笑ってしまう作品ですが、ゴス乙女的にはビジュアル的に押さえておいて損のない作品かと思います。ジェームズ・ワトキンス監督は今後ぜひとも本格的な暗黒乙女映画撮ってほしいですね。『暗い森の少女』とか向いてると思うの。オルゴール風のグロッケンとかチャイムに絡まる悲鳴のような不協和音の弦が印象的なマルコ・ベルトラミのスコアもよかったです。

cracks

『汚れなき情事』

わけあって家にいられない良家の少女たちが集められている街から遠く離れた寄宿学校。肌寒い春の湖で繰り返されるスローモーションの飛び込み。全て脱ぎ捨てた小さな人魚のような美少女たちと謎めいた美しい女教師のナイト・スイミング。繰り返される「大切なのは欲望」の言葉への希望と憧れ。永遠に閉じられた世界、壁のなかの自由。自足しながら発熱気味の少女たちの世界に一人の少女が「ヒビ」を入れ、彼女が女教師の「微熱」を「高熱」に変えてしまったことから始まる悲劇。情緒不安定が連鎖した果ての小さなパラダイスの終焉と脱出。

このヴィジュアルでこの面子でこの題材!世が世ならシネマライズでヴァージン・スーサイズ同様のロングランヒットを飛ばしたに違いないですよ!しかし2012年は世が世ではないので、これもひっそりと劇場未公開でソフトリリースされていました・・・。

まるで「残酷版:もうひとつの小公女」のような大変良い暗黒乙女映画です。とざされた世界でのまがい物の自由ではなく、本当の自由を象徴する転校生フィアマ。彼女が現れたときの服装や「異国の物語」で下級生を魅了するキャラクターは大変セーラ・クルー的。そのうえ“語り手”ダイ役のジュノー・テンプルとその親友ポピー役のイモージェン・プーツ(ふたりともだいすき!)は多分世界でいちばんアーメンガード顔とラビニア顔の女の子ですからね!ただし、この作品においての「ミンチン先生」であるミス・Gはフィアマをいじめるよりももっと恐ろしい「特別扱い」を始めます。そしてこの映画のなかにはセーラを救いにきてくれる“紳士”はどこにもいないのです・・・
全力の少女フェティッシュが炸裂しつつも、どこか俯瞰的で熱狂せず微熱にとどまるジョーダン・スコット監督の演出はかなり好み。熱量よりも静かな鈍い痛みで神経に障らせるこのムードで「暗い鏡の中に」を映画化してほしい、なんてことも感じました。

<音楽編>


ベンジャミン・ブリテン 「『ピーター・グライムズ』より4つの海の間奏曲」

2012年は人生で初めてオペラ鑑賞した記念すべき年でした(大げさ)。演目は残酷で陰鬱で荘厳な海のオペラ『ピーター・グライムズ』。最小限の簡素なセットで描かれ、全く知ってる曲もなく、話はほとんどケン・ローチ・・・ということで、序盤はあまりの地味さに不安になったものの、中盤にエレンを責め立てる、村人たちがグライムズの家に殴りこみをかけるパートあたりから合唱の凄まじいまでの迫力に持っていかれ、クライマックスは音にも演出にも圧倒されました。荒海の波しぶき、吹き荒れる北風、噂のざわめきを形作る旋律。フルートとバイオリンがかけあがりかけおりる、つむじ風のような主題の不穏さ。時折鳴る波のような銅鑼。さざなみのような打楽器。糾弾の声のようなトランペット。ベンジャミン・ブリテンの手掛けている音楽はほとんど現代の、私が好んで聴く映画音楽と変わりません。

物語そのものとしてはちっとも乙女的なストーリーではないのですが、暗黒乙女な画や小説を鑑賞するときのサントラにはぴったりだと思ってこちらにセレクトしてみました。それに

「社会がより残忍になれば、人もまたより残忍になる」

見終えてみれば深く、重く、実感を伴って響いてきたこのブリテンの言葉――これって私が好きな暗黒乙女ものに通奏低音として響いていることが決して少なくないな、と気づいたから。

2013年も期待の暗黒乙女映画や小説は色々。また気に入った作品があればこちらで紹介していきます。みなさんもお勧め作品あればぜひ教えてくださいね。(@vertigonote)

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