【Book】【Music】『リヴァトン館』の記憶に添えて/Dinu Lipatti『Chopin Waltzes』

こんばんは、@vertigonoteです。
ようやく秋めいてきましたが、この夏はあまりにも暑かったせいか、せつなくて少し怖くてかなしいゴシック・ロマンに涼を求めていた気がします。ようやく読んだケイト・モートンの『リヴァトン館』はまさにそういった「お屋敷もの」好きの心をときめかせてくれる小説でした。

イングランドの古い屋敷「リヴァトン館」で1924年に起きたある青年の自殺と、その青年を愛した姉妹ふたりの悲しい関係。その事件をモデルにした映画が撮られることになり、あの屋敷で働いていた唯一の話を聞きたいと監督の女性がやってきたことから、98歳の元メイド・グレイスは「あの頃」を初めて語り始める・・・という「(『贖罪』+『本格小説』)÷2、meetsタイタニック?」なんて思わせるプロット。でもパラノイアックなディテイルが特徴なそれらの作品に比べると「ミステリー」の回答が明確になっていることもあってストーリーのうねりは実は少々淡白に感じました。ただし、そこになかった部分としてグレイスの「女主人への憧れと友情と恋にも近いシスターフッド」が通奏低音に響いているのがせつない。「上」と「下」がまじりあうことが決してない時代の常識のなかでしか生まれ得なかったふたりの強く悲しい絆と残酷な「嘘」の物語には、心地よく飲みこまれたもの勝ち、だと思います。ちなみに私のなかのグレイスのイメージはジュノ・テンプル(←やっぱり『つぐない』のイメージに引っ張られたようです)。

さて、その『リヴァトン館』のなかでは、印象的にショパンのワルツが使われています。なので迷わず読書BGMは夭逝のピアニスト、ディヌ・リパッティの弾くショパンのワルツ集をセレクト。自らの死が近いことを知りながらのラスト・リサイタルの伝説がいまだ語り継がれる彼の名は恩田陸の著作から知りました。清潔で正確なコットン・リネンのような音が、リヴァトン館という“喪われし場所”でさざなみのようにゆらめく――美しい音は美しい小説の理想的なサウンドトラックになってくれました。

実は私、子どものころショパンの良さがほんっとうにわからなかったのですが(とにかく憂鬱な気分になってしまってですね・・・)最初にリパッティの演奏を聴いていたらその印象はかわっていたかもしれません。それくらい彼の演奏は特別。私はクラシックの知識ゼロにひとしい人間なので音楽的裏付けは全くないのですが、初めて聴いたときモノラル音源さえも心地よく、聴いたことがない不思議に優しくあたたかいメロディに思えたのです。とにかく上品で透明性の高い、清潔な音が大好き。

多くの演奏がそうであるように秘めたる激しい感情を滲ませるような強い響きがないかわりに、ただただ純粋な「きれいな音」がそこにある。憂鬱や倦怠や物悲しさを飲み込んでやわらかく響く「別れのワルツ」は哀しみのリヴァトン館の “幽霊たち”にとても似合っているように感じました。

私は夏休みに読みましたが、去りゆく夏を惜しみながら・・・という今のタイミングもまた、この大河ゴシック浪漫とやわらかな音楽が楽しめる時期かと思います。秋の夜のお供に、是非。(@vertigonote)

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